今度行ったときは周りにがあがあと、カラスの鳴き声がした。それも一羽どころではなく何羽もだ。操が占い館の屋根をみてみると鳴き声の通り何羽もくつろぐようにとまっていて、館はいつも以上に不気味な感じがした。占い館としては雰囲気がぴったりなのだろうが、カラスを怖がって周りの人達は近づこうとしないので、逆効果もいいところだ。
 曹の前にぼうっと立った少年がいる。その周りにカラスが何羽かとてとて歩いたり、その少年の肩にとまっていたりしていた。荀と同じく三国高校の制服を着ている。彼は立ったまま曹と話しているようだ。
その光景は、死神が死を告げにきているという場面だと言われてもおかしくないようなものだったので、操はカラスを怖がりながら近づく。
「あなたは?」
 流し目で操を見、少年はいきなり声をかけた。唐突だったので、言葉を用意していなかった操は口を開くことも出来ず少年をまじまじ見詰めた。
 彼もまた、荀のように聡明な瞳を操に向けていた。しかし、荀とは全く違う冷徹で過酷な一面を性格として持つと想像させるに容易い、そんな漆黒の双眸だった。纏う雰囲気からして違うのだ。当然だろう。きっちりと分けられた髪型、制服もはりがあり整えられている。睨むでもなく見つめるでもない。それが逆に厳しさを感じさせる。
 彼は操の答えを待つ。があがあとカラスも訊くかのように鳴く。
「こいつが今話してた、鷲羽操だ」
 曹はいつもと変わらぬ笑顔で操を指さす。少年から目を逸らしきらきらした曹の黒い目をみていると、まだまだ死にそうにない。自分が少年の呪縛から逃れたこともあるが、操はなぜかほっとした。馬鹿は風邪をひかないの強化版のようなものだ。
 言葉は解けだした緊張の網の中からするする出てくる。
「どうも、鷲羽操です……。あなたは?」
「佐伯カフカです」
 淡々と言い、飛んできたカラスを手にとまらせた。カラスを見つめるカフカの目は、ふと柔らかさを帯びる。厳しすぎると見たのは、操の勝手な印象によるものだろう。
「へーカフカ……珍しいね、カタカナの名前」
「兄はリルケです」
 カフカがカラスを怖がらずに可愛がっているのはミステリアスだった。伊予に負けないくらいだろう。ただ男子にしては肌が白く、痩せ型で何となく体が弱そうだった。彼に比べて曹は大柄でがっしりしていて何を食べてもどんな病気になっても首を切られても大丈夫そうだった。
 操は、楽しそうにそして無邪気にカラスを追い掛け回しては飛び散らしている曹の姿を見て、自分がこの男の友達になれて、何となくだが嬉しく思った。



 操は友達という身分でよかった。曹を中心とする輪の上にいられて、その時はまだよかったのだ。



  3
2に続く
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