七番目のいぬのおはなし




 むかしむかしのおはなしです。
 ある王様につかえる頼れる家来がおりました。皆から好かれる、素敵な人でした。
 ですが、家来は悪い人にころされてしまいました。
 家来の家族も、全員ころされてしまいました。


 けれども、一人だけ生き残ったこどもがいました。
 血のかたまりでした。何度薬を飲んでもころせません。
 こどもはお母さんのお腹の中で守られました。ころされずにすみました。
 ですけど、生きていることを知られればころされてしまいます。
 だから、こどももお母さんも、うそをつくことにしました。
 こどもは男の子でしたけど、女の子として育ちました。



 何にも知らずに育った男の子は、お母さんが死んだ時に初めてそのことを知るのです。
 男の子は思いました。
 許せない。なんてひどいやつらだ。
 許せない。許せない。許さない!
 あたしが、あたしがこの手で。
 ううん、ううん。
「おれ」がぜったいに、ころしてやる!


 そうして、男の子は女の子とうそをついたまま、悪い人をころしました。
 たった一人で、お父さんの仇を討ったのです。
 たった一人で、お城にいる敵をたくさんころしたのです。



 お城には囚われの勇者さまがおりました。
 男の子は勇者さまと一緒に逃げようと思いました。
 どうしてって、勇者さまが素敵な人だったからです。
 とてもあたたかい何かを感じるからです。
 でも、男の子にはそれが許されませんでした。
 お父さんの仇はもう一人いるから?
 たくさん人をころしたから?


 いじわるな川の流れが、勇者さまと男の子を引き離します。
 男の子は一人になりました。


 男の子はもう一人の仇をころさないといけません。
 ころさないと、きっと勇者さまとは一緒にいられないのです。
 でも、そうではないかもしれません。誰もそんなことはわかりません。
 ただ、男の子の中には、めらめらと燃えていました。
 仇をうたなければいけない。
 そういう、静かな炎が、男の子を燃やしていました。


 男の子は体があちこち汚くなっても、みすぼらしくなっても、仇を探し続けました。
 そしてある時、男の子は勇者さまとその仲間と再会を果たします。
 勇者さまも仲間も、男の子を助けると言いました。
 だって、男の子と彼らはきょうだいだったからです。
 血ではありません。魂のきょうだいです。
 男の子は喜びました。
 だけど、すこし困ってしまいました。
 男の子には、仇討ちがあるのです。
 二人とも、助けるとは、言ってくれたけれど。
 男の子は、困ってしまいました。



 だから、男の子は二人の前からいなくなりました。
 男の子がどこに行ったか、もうわかりません。
 男の子は、もういなくなりました。



 こうして、男の子はたった一人をころすための旅を始めたのです。
 ええ、きっと、その胸に、静かな炎を燃やし続けるのです。




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