お妃さまのおはなし
むかしむかしのお話です。
ある国に、ひとりの美しいお妃さまがおりました。
そのお妃さまは王様にたいそう愛されておりました。お妃さまの言うことなら何でも聞いてくれるのです。
だから、えらくなりたい周りの人はみんな、お妃さまに取り入って、王様に願いを叶えてもらおうとしました。
その人が悪い人であれ、つまらない人であれ、お妃さまはどんな人の願いでも王様に言って叶えてもらいます。
どんどんどんどん、悪い人ばかり王様の周りには集まっていって、お妃さまにへつらわない人は居場所がなくなって、どんどんどんどん、いなくなってしまいました。
お妃さまにはそんな力があったのです。言葉の力です。
その悪い人の内の中から一人、お妃さまに特別に取り入る人がいました。
そしてお妃さまは王様よりもその人を愛するようになりました。
やがて、その人が王様を騙してころしてしまい、その国を乗っ取ってしまいました。
その人は新しく王様になり、お妃さまはその王様のお妃さまになりました。王様はぜいたくし放題で国をたいへん苦しめました。
お妃さまは相変わらず王様に愛されており、ただただぜいたくに暮らしていました。
だって、仕方ありません。
本当はお妃さまには、何の力もなかったのですから。
言葉の力なんてそんなもの、あるわけがないのです。
お妃さまは、本当はものすごく弱くて、なさけない、ちっぽけな人でした。
だから、お妃さまは何もしません。できません。
そんなわけですから、お妃さまも結局は、国を苦しめていたことになるのです。
そこへ救世主があらわれました。
前の王様の家来が、どうか国を救ってくださいとお願いしたのです。
多くの助けを得て、救世主は今の王様を成敗しました。
悪い奴らはお城からいなくなりました。
お妃さまだけが残りました。
お妃さまは言いました。お妃さまは言葉に頼りました。
救世主さまはとても心お優しい人だと聞きました。どうか、どうか助けてください。
お妃さまは泣いている顔もとても美しかったのです。救世主は可哀想だから助けてあげようと約束しました。
ですが、前の王様の家来は言いました。
本当に悪いのはお妃さまだと言いました。お妃さまを許してはいけないと言いました。
救世主は言いました。
そうか、私が間違っていた。この者の首を落とそう。
ああ、ああ。なんと言うことでしょう。
お妃さまは死んでしまうことになりました。ころされることになりました。
お妃さまは泣きました。
泣いて泣いて、たくさん泣いて。
やがてその顔は、とてもとてもこわい顔になりました。
泣いて真っ赤なのか、怒って真っ赤なのか、わからないくらい、おそろしい顔に。
お妃さまはさけびました。
一度結んだ約束を破るなんて、ひどい。
助けると言ったのに、命をもてあそぶなんて、ひどい。
ひどい、ひどい、ひどい!
お前たちの子供たちなんか、みんな、みんな、犬にしてしまう!
でも思い出してみてください。
お妃さまには本当は、何の力もなかったのです。
だからこんな言葉に、意味はありません。
どれだけ言葉を重ねても、どれだけ恨んで憎んでも。
呪いなんてそんなもの、あるわけないのです。
ああ、なんておろかなお妃さま。
ああ、なんてかわいそうなお妃さま。
でも仕方ありません。
わるいのは、お妃さまなのですから。
あとは、もう何も聞こえません。何を言ったかなんて、わかりません。
お妃さまは死にました。お妃さまはころされました。
お妃さまは、もういなくなりました。
こうして、お妃さまがいなくなった国は平和になりました。
ええ、きっと、平和になったのです。