女の子のおはなし
むかしむかしのお話です。
ある村に、仲の良い男の子と女の子がおりました。
二人はいとこ同士でした。女の子の家に男の子がやってきたのです。
それはどうしてかと言うと、男の子はお父さんにそれはもう酷いこといじめられていたのです。昔は、もっと優しいお父さんだったのに。
ですから、女の子のお父さんが可哀想に思って、男の子を引き取ったのでした。
男の子と女の子は、大人になったら夫婦になる約束をしていました。
大人になりました。二人は結婚しました。
仲の良い二人のはずです。でも、男の子は女の子に触れようとしません。
それなのに、どうしたことでしょう。女の子のお腹が大きくなってしまいました。
男の子のお父さん達はみんな女の子のことを悪く言いました。
きっと、うわきをしたんだ。
きっと、他の男の子供を宿したんだ。
女の子は泣きました。そんなことないと言っても、誰も聞いてくれません。
男の子でさえ、聞いてくれないのです。
男の子は女の子を遠ざけて、一人でひっそり山に暮らそうとしました。
でも女の子は、それが我慢なりませんでした。
とても悲しかったのです。
なぜって、女の子は男の子のことがほんとうに大好きだったから。
男の子に何を言っても、一言も答えてくれません。
女の子は、諦めました。
女の子は、死のうと思いました。
死んでやる。そう思いました。
でも死ねませんでした。義理のお母さんに、助けられたからです。
でもきっと、助けられなくても、女の子は死ねなかったはずです。
なぜって、女の子は男の子のことがほんとうに大好きだったから。
男の子にその想いが届いたのでしょうか。
男の子と女の子は少しだけ、昔の二人に戻ったように仲良く過ごしました。
しあわせな時間でした。
まるで最後のきらめきのような時間でした。
ええ、本当に、それは最後の輝きでした。
意地悪なお父さんがやってきます。
お父さんの為なら何でもすると二人はうっかり言ってしまいました。
それもしょうがありません。本当はお父さんと仲直りしたかったからです。
お父さんは、女の子のお腹にいるこどもの心臓が欲しいといいました。
お父さんは、女の子に、死ねといいました。
男の子は、何も、言い返せませんでした。
男の子は、酷くいじめられたけど、お父さんのことが大好きでした。
だから、逆らえなかったのです。
こんな無茶なお願いはないと言いながら、諦めたような顔をしていました。
とてもつらい顔でした。
女の子は思います。
今ここでわたしが死んだら、わたしの中に何もないと、ちゃんとわかってもらえる。
そして、そして。
あのひとを、救うことが出来る。
あのひとが、笑ってくれる。
わたしの大好きな、だんなさま。
女の子は、胸を突きました。ざくりと、お腹も裂きました。
なぜって、女の子は男の子のことがほんとうに大好きだったから。
とてもまぶしい光が放たれたようでしたが、女の子にはわかりません。
女の子は、死んでしまうからです。
そうです。女の子は死んでしまいました。男の子を助けて死んでしまいました。
女の子は、もういなくなりました。
こうして、女の子をなくした男の子は、仲間である男の子と一緒に旅に出るのです。
ええ、きっと、旅に出るのです。