お嫁さんのおはなし




 むかしむかしのお話です。
 ある村に、一人の若者と一人の女の子がおりました。
 女の子は村長の娘で、若者とは幼い頃から結婚を約束していました。
 女の子は、お嫁さんです。
 村の人たちは、お似合いの二人を見て早く結婚しないか、わくわくしていました。


 でも、お嫁さんはほんとうは、村長の娘ではないのです。
 ずっとむかし、本当のお父さんに忌み嫌われて捨てられた子なのです。
 人殺しの娘なんです。
 まあ、こわいこわい。



 そんな子だからでしょうか、村長である父と母は若者との結婚をやめにして、別の男に嫁がせようとお嫁さんをいじめたり、別の男も、お嫁さんをうばおうとしました。
 若者は、お嫁さんを捨てました。
 若者は愚かです。お嫁さんがどれだけ困っているか、どれだけ若者を好きでいるか知らないで、若者は自分がずうっと成し遂げたかったことの方を選んだのです。
 お嫁さんが行かないでと泣いて頼んでも、全然平気でした。
 ばかな若者です。
 きっとこの世に二人といない、まれな若者です。



 若者に捨てられて、お嫁さんは決めました。
 死んでしまおうと決めました。





 でも、死ねません。
 なぜって、お嫁さんは若者のことが好きで好きでたまらなかったから。



 だけど、お嫁さんを好きだった別の男に、お嫁さんはさらわれてしまいます。
 そして、ころされてしまいます。
 お嫁さんの本当のお兄さんが突然現れても、もう助かりません。


 お嫁さんはお兄さんにお願いを託します。
 若者の大切な忘れものを届けてほしいと。





 けれど。ああ、けれど、お兄さんはそのお願いを断ります。
 お兄さんも若者と同じです。愚かな若者だったのです。
 お嫁さんは、深い深い絶望に沈みます。
 お嫁さんは、あっけなく死んでしまいました。
 お嫁さんはもう、いなくなりました。





 そして若者は、お嫁さんの魂と出会うのです。
 恨みごとを言われるのでしょうか?
 最後の夜のように泣いてすがってくるのでしょうか?
 それとも、大好きだと伝えにくるのでしょうか?
 そんなのはわかりません。
 だって、お嫁さんは、もういなくなっているんですよ?
 そんなのはもう意味のないことです。
 どうでもいいことです。



 だけど、きっと。
 ええ、きっと、いつか必ず、出逢うのです。

 




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