○南総里見八犬伝 原典読書めも○

ほとんど自分の為に綴る、原文読書の手引き。自分の為のあらすじ・ダイジェスト・覚書やツッコミメモなど。
伏姫屋敷さんの「『八犬伝』のわりと詳しいあらすじ」のおきあたまき版と言ったところです。
コンテンツの一つですがあくまで自分用に書いてるので、あらすじなのかコレ? とか結構わけわからんところがあるかもしれません。
自分用なので、さらっと感想とかも出てきますし。ならコンテンツにするのはどうなんだって はい まさしく
それと自分の解釈メモとしても用いてるところがあります。いろいろ深読みしたり考察したりなんだり。

時々出てくるパーソナリティは八犬士を影日向に見守ったり困難を授けたりする伏姫と玉梓です。
ゲストで八犬士や他のキャラクターも出てくるかも。犬士はそのままパーソナリティ化してる感じ。
漢字が表示出来ない場合は「〓」で表記するか、そのまま平仮名に直すか、別の漢字を使います。
読書めもは読書と共に更新されるので、すごく不定期更新です。めざせ全回網羅!(何年後になるやら。)
そして折に触れて追記したりするかもしれません。本当に、すごい自分用ですね。
回を重ねるごとに長くなっていくめんどい仕様になりつつあります。

ツイッター@tamaki_okiaでハッシュタグ #八犬伝原典読書めも をつけて時折ツイートしております。
考察やよもやま話含む。そのツイートを再録したりそれを元に書いたりしてます。こちらで見れます。

○ 更新りれき * 過去のりれきはこちら
2013/12/31 第28回を掲載しました。(読書状況:14/05/18現在第七輯65回まで読了)

○「南総里見八犬伝」とは○
八犬伝とは? そこそこ真面目な解説です。連作「八匹の犬より愛をこめて」についても書いてます。

肇輯 第二輯 第三輯

○各回ジャンプ○
第一回 第二回 第三回 第四回 第五回 第六回 第七回 第八回 第九回 第十回

~南総里見八犬伝 肇輯~(岩波文庫第一巻収録)

巻之一 第一回「季基訓を遺して節に死す 白竜雲を挟みて南に帰く」○
義実パパ、つまり伏姫のおじいちゃん季基、結城の戦から義実を涙ながらに逃し自身は戦死を遂げる。
老臣・杉倉氏元&堀内貞行と共に三浦の入江に逃れる義実。 ところで季基って字面がいいよね。すえもと って響きも凛としてて好き。
地元の悪童から土を投げつけられるが、名言「土はこれ国の基なり」で受け止める。ポジティブ。
八犬伝関係の知己・帝江くんが以前描いた漫画のこのシーンで大爆笑したので、またどこかにアップして欲しいなと思ってたりする。イケメーン
義実、白竜の瑞祥を安房の方角に見る。竜のうんちくを延々語ったところで、一行、安房へ向かってしゅっぱーつ。

巻之一 第二回「一箭を飛ばして侠者白馬を悞つ 両群を奪ふて賊臣朱門に倚る」○
安房半国の主は神余光弘。だけど最近は政治がだらしない。
色を好みお酒に耽る。特に玉梓という淫婦(と書いてたをやめと読む)をことさらに寵愛してたのだ。
だから玉梓のご機嫌を伺えば悪いものでも良く用いられるし、そうじゃなければそうじゃないし。
その中で山下柵左衛門定包という佞臣がおりまして、玉梓とも密通して神余の殿様をさらにダメダメにしてしまいました。
そんな中、義に厚い農民・杣木朴平と洲崎無垢三が山下定包暗殺を謀るものの、定包が先にこれを知り、
罠を仕掛け、朴平と無垢三らに領主・神余光弘ならびに近習・那古七郎を誤殺させるという酷い事態に。
外道。外道すぎるぞ定包。玉梓、定包の妻になり、定包、やりたい放題好き放題。
ところで滝田の城が(一時的に)玉下って名前になるのだけど、これって玉梓と山下って意味か。おいおい、ちょっと可愛いぞ定包。
館山の城主・安西景連と平山の城主・麻呂信時、この定包を何とかしたい…と頭を悩ませているところに、義実一行ご訪問。

伏姫「ところで、玉梓はこの罠の計画を知っていたんですの? 
本文中には、「とそゝのかす傍より、玉梓これを興じつゝ、もろ共に勧めしかば」とありますけど……」
玉梓「さあてな」
伏姫「あら、教えてくれないんですの」
玉梓「教えるも何も、それは読者の読みに依るじゃろう。行間、つうものだろうよ」

個人の願望としては、玉梓は何も知らなかったと思いたいなあ。
ちなみにTHE八犬伝の玉梓は、定包に言われるまま神余に提案したという形に描かれている。
男に翻弄されるまま破滅の道を歩んでしまった女の悲哀のこもった姿をよく描写出来てたなあ、と思うなど。
朴平と無垢三の義憤がとてもカッコイイと思う。それだけに罠に嵌めた定包にグギギ。


巻之二 第三回「景連信時暗に義実を阻む 氏元貞行厄に館山に従う」○
やたらものものしい感じで迎えられる義実一行。何かもう一触即発な感じの会話とかしちゃう。
安西、三日以内に鯉を献上するように義実に命令。義実、承知仕る。
でもでも~~~ざーんねーんでーしたー! 安房に鯉はいないんだよばーかwwwプゲラwww!
この約束は守れないから、その罰として義実をチョンボしちゃえばこっちにも非はないし憂いもないね☆ かげつら、天才! えっへん!
そんなことは知らない義実、太公望きどりでのんびり鯉を求めフィッシング。
里見主従の明日はどっちだ。

巻之二 第四回「小湊に義実義を聚む 笆内に孝吉讐を逐ふ」○
鯉を求めてまだまだフィッシング義実一行。でももう時間がないよ。
そこに謎の唄を歌いながら、一見すれば変人にしか過ぎないであろうが、物語の鍵を握る重要人物、金碗八郎孝吉 参☆上!
……くっさ!! くっさくっさ!!(ひどい)
いや、臭いかどうかはともかくとして、きっと浮浪者もびっくりなほど酷い様相の八郎である。
神余の殿様が全然話聞いてくれないので出奔していろいろ武者修行してたと言う八郎。
ちなみに第二回に出てきた那古七郎や天津兵内は同僚で、朴平や無垢三は八郎が個人的に使ってたいわゆる私兵っていうやつ。
八郎、義実のことを「一トたび御名を聞しより、只嬰児が垂乳母を、慕ふ心持はする」と言っている。
なんか、ちょっと、おほもな においが する。って腐女子脳どっかいけ。
まあ いい意味でも悪い意味でも、義実は八郎の運命の人みたいなもんだな。うん。
鯉は釣れなかったけど、ここらへん蟹は大量にある。というわけで蟹を子供からしこたま買い取って、薬を作って八郎、キレイになる。
そして竹叢に放火し近隣住民を集め、八郎、義実の応援演説。義実も演説へ。
…そんな喩えを用いたのは、読んだのが衆院が解散し総選挙を控える2012年11月のことだったから。まことにタイムリーである。

伏姫「……はっ! 永田町八犬伝!! これです! これですよ次の二次作品は! きっと流行りますわ!!」
玉梓「知るか(-_-;)」
伏姫「ぷ~。でもでも、犬士達のような政治家がいればいいと思いませんか?」
玉梓「……そうか?(正直嫌な予感しかしない)」

ボヤ騒ぎに出てきた住民達の描写がなんか和む。
火事や火事やー!→バタバタ→たけやぶだけやけた→なんだー心配させんなよーでもホッ
みたいな流れなので。ここに「祢子も釈氏も」という表現があります。(祢は漢字が出てこなかったよ…)
おお、「猫も杓子も」ってこれが本来の形だったんだなー、とちょっと驚いたり。
さんざかがさざんかになったみたいなもんか。違うか。一所懸命が一生懸命みたいな感じか。
(2012/11/29追記)

あだしごとはさておきつ。
このボヤ騒ぎに出てきた萎毛酷六郎元頼の東条城を奪って拠点にすることに。
萎毛、逃げるけど八郎が追いかけてってフルボッコに。

(ここから、13/02/20加筆修正)
義実、それを聞いて何もそこまでしなくても…と残念がる。。。
……と思っていたのは私の読み間違えで。
JICCの完訳八犬伝(羽深律・1985)を読書していて、それによると
「萎毛酷六が妻子もろともここまでこっぴどく死んだのは逆賊に与したからだけでなくて天が赦すことの出来ない悪人だったからだ」
「もし悪に従うことがあっても、自分から悪をなしちゃダメよ」
だそうです。
でもなー ここで義実が八郎を前にこんなこと言うってことは少なからず、皮肉じゃないけど、
遠回しに「何もそこまでしんくても…」って言ってるような、ちょっと非難してる気もするんだ。私にはね。
まあ八郎を前によく討ってくれた、滝田に連絡がいっていたらヤバかったかも、まさに意に叶ったりと賞を与えようとしてるけども。
(加筆修正ここまで)

「定包に従ふものみな悪人にはあるべからず」という言葉が印象的。
ここら辺を読んで、ほんとに義実は仁君だなァと感心してしまう。戦国の世に甘い考えだ、と言われそうでもあるが。
だからこそ玉梓を助けなかったのが本当、玉についた唯一の瑕と言うもの。
その瑕の為に娘を犬に嫁しその娘は自害で喪い妻も死去し、大輔も出家させてしまう、という不幸のスパイラルに陥るのだから、
なんていうかほんと、皮肉。
でも、ちょっと、少年のおもざしを残してるであろう義実の人物像がぽつぽつと、浮かんできた感じです。

さてさて、義実の徳を慕って続々と兵が集まってきます。一気に千騎になったよー!?
待崎のお社に矢を二本奉納、なむなむと祈念すれば、松の梢から飛び出て来たのは白鳩二羽。ポッポー。
これはまた、白竜の時のような瑞祥ですネ。合戦勝利、間違いなしなるか??


巻之三 第五回「良将策を退て衆兵仁を知る 霊鴿書を伝て逆賊頭を贈る」○
義実が兵を挙げていることなど知らない定包、玉梓や他の女たちを侍らせて遊び耽ってます。
やがて義実達が進軍!進軍!してくると風雲急を告げる騒ぎになりまして、岩熊鈍平・錆塚畿内という腹心の労党を戦地に向かわせます。
余裕だろ、と思っていたら返り討に遭うわけですよ。八郎VS畿内、貞行VS鈍平の描写。
安西と麻呂に救援を頼もう、というわけで妻立戸五郎が使いに出ます。

ここら辺で玉梓厨のたまき的に注目すべきところなのは、負傷した鈍平・畿内達がが戻ってきたところで、
「玉梓は劇惑(あはてまど)ひて婢ばらに扶られ、屏風の背に隠れけり」という文。
まー、なんというか玉梓、二次作品で随分ふてぶてしい悪女のように描かれてる感じではあるけど、
男達の負傷した様子に「劇惑ひて」しまうものなのか、へえー、とちょっとびっくりしました。
だから何か、もしかして玉梓って結構繊細だったんじゃないかなって、ちょっと思います。

滝田城は義実軍に包囲され籠城戦へ突入。お腹空いても、仁君たる義実は農民達のものに手を出しません。偉い。
とは言えこのまままんじりともしていられない。鳩を使って滝田城にいる人々に降伏勧告を檄文を撒きます。選挙ですねほんと(え?)
人々はその檄文を読み寝返ろうと目論むけれど怖いのは岩熊鈍平と妻立戸五郎。まずこの二人をつぶしてから…

とそんな計画があることを知った戸五郎は急いで岩熊の所へ。ところがところが岩熊は定包を守ろうとするどころか戸五郎に寝返りを薦める。
岩熊はかつて神余の馬の口取という低い身分だったのですが、重く用いたのは定包様じゃないかと、戸五郎呆れ、ばかかとアホかと。
んが、どっこい、岩熊は定包のした弑逆を知っているのです。何故ならー、第二回の罠に使った白馬の餌に毒を入れたのが岩熊だからでーす。
神余謀殺の片棒をかついでしまったが故に、岩熊は重く用いられることになったのです。

いやぁ……ここら辺の会話がすごく面白いと思う。
「二群両城は、われ定包にとらせしなり」――低い身分で、しかも金を握らされたら逆らえるわけがない。
逆らったらそれは、即ち死。
犯罪に加担したことで重役になったが、そんなものに恩義を感じるはず、あるわけがない。
むしろ、今の定包の栄華は、自分が齎したものなのだ――と、きっと岩熊はうす暗い笑みを浮かべているのでは。
しかも再読して初めて知った衝撃の事実と言うか、玉梓厨の私的に見逃せない一文が。

「妻立生、和殿は月ごろ日来より、夫人に懸想して、〓(およば)ぬ恋に物を思ふ、とわれ予てより猜したり。
 しからばはやく思ひかへして、人啖馬を撃ときは、賞にかえても玉梓を、妻にせんこと易かりなん」

妻立は玉梓に懸想してたのかー!! 近習ってことはそうだろうなあ、玉梓に会う機会も多かっただろうし、惚れるのも難しくない…なあ。
いやそこに感心したんじゃなくて。
「玉梓を、妻にせんこと易かりなん」
ってところに、何て言うか、悲しさを感じたと言うか。
神余の殿様の愛妾だと思ってたら、定包の妻になって、で、定包がいなくなったら、また誰かのものになるか、死ぬか。
男に繋がれて流浪しなければならない――そんな女人の哀切さをひしひしと感じてしまったのです。
玉梓関係のことでここまでで二点驚くことがあっただけでも、再読してよかったなと思います。

で、そのあと岩熊と戸五郎による定包誅殺。定包が尺八で対応するのがちょっとキザっぽい感じがしました。
挿絵で定包VS岩熊&戸五郎。定包美形なのよね。戸五郎も。岩熊はまあ名前通り熊顔。
後半十数行ほど馬琴さまの、臣が主君を討つことやらなんやらに対しての愚痴。
「夫不義にして封爵を受んより、不義ならずして匹夫に終ることこそよけれ」 ほんとですわね。

巻之三 第六回「倉廩を開きて義実二郡を賑す 君命を奉りて孝吉三賊を誅す」○
義実軍にゅうじょーん。光弘がいなくなってからはずっと贅沢の限りを尽くしてたので城内はきらきらしてる感じ。勿論、この為に民は苦しんでいたわけですな。蓄えもめっちゃあったので、まだ安西と麻呂がいながらも、仁君たる義実はそれをみんな民達に与えます。タイトルの「倉廩を開きて義実二郡を賑す」ってのはこの辺りだな。
(以上13/05/26加筆)

戸五郎と岩熊、罪のなすりつけあい。見苦しいわ…
戸五郎が玉梓に懸想してたことを否定してるけど、これはウソなんじゃないかしらん。
なんか、岩熊に言われたとき、「図星をつかれた」感じだったしサ。
八郎、この二人をかなり残酷に殺します。義実が見てた描写はなかった気がするけど、見てたらドン引きしてそう。
たぶん、見てないんだよね。義実は首実験の場にいるだけで。でも玉梓処刑のとこにはいたのだけど。
そうです。そうですそうです!
この回どころか、八犬伝の冒頭、義実編とでも言いましょうか、最大の見せ場であろう!!
玉梓厨たまきお待ちかねの、玉梓処刑シーンですよ~~~!!! ドンドンパフパフ~~~

伏姫「ぱふぱふ~いぇいいぇ~い!!! ……あら? 顔が引きつってますわよ玉梓」
玉梓「どこの誰が自分の殺されるところを歓迎するかあほ!!」

ところでここまで書いて気付いたことなんですけど
当たり前と言えばそうだし、そもそも読本かつ稗史小説であるものにそうそう名前のある女人が出てくるものでもないのだろうけど、
玉梓って、この時点で唯一名前のある女性キャラクターなんだよね。
勿論、彼女自身が本当に悪だったかはともかくとして、悪側にいる人物であるのは間違いないわけだけども、
その唯一性はどこか神話じみているような気がしてきませんか。
彼女の悪性は、同時に聖性を帯びているものではないのだろうか? 八郎が最初汚い姿で現れたのと同様に。
悪の中に独り咲く彼女は、まるで龍やドラゴンの守る玉や、宝物のような感じがする。「玉」梓、って名前でもあるし。

というわけで、約束を違えた末に彼女を殺すという最悪の結果を招いてしまった義実は、
前述した不幸のスパイラルに陥る呪いを受けてしまったわけです。
その呪いは、私が指摘した玉梓の聖性(あるいは神性?)を思えば、やはりただものではなかったわけだコリャ。

考えてみると、神余・山下ともに堕落にふけって遊び放題好き放題という贅沢を尽くしていたわけですが、
その富はもしかすると玉梓がもたらしたものと言えるかもわかんないです。
さすがにこの考察は私の創作に近いものがありますが、ある意味では玉梓は“福の神”だったのかもしれません。
紅一点であることも考えると、七福神の弁財天みたいですね。(弁財天と伏姫の類似は既に指摘されていますが)

福と富をもたらすけれど、それに溺れるかどうかはその男次第で、玉梓に罪はないような気がします。
なんとなく、ファムファタルな感じ。
いい神様をないがしろにすると悪い神様になる、という話は神話に限らず民話や伝承とかにも多いし、
邪神とされてる神様が場所を変えたり別の宗教ではいい神様だったりするケースも沢山ありますね、世の中には。

まあこの、「玉梓=福の神?」な解釈はここでぽろっと書いただけで、小説の方にはまったく採用する気はないです。
でも、今まで読んできてもわかる通り義実はこれ以上ない仁君だし、玉梓に溺れることもないと思うのです。
拙作の方でも仁君だから私に靡くはずもない、って玉梓認めてますし。
でも、もし玉梓を生かしていたら、どうなってたのかな~。

ちょっと話が逸れましたのであらすじへ戻りましょう。

玉梓の罪を述べる八郎。必死に嘆願する玉梓。
テメェだって主君見限って勝手に出奔しただろーがヴォケがなどと八郎の痛いところをついたり。これが図星だったんじゃなかろうか八郎。
男だって主君によるもんなんだしましてや女だって、と隷属しなければ生きられない女の弱さにすがったりもする。

ここらへんの下りは泣ける。私が玉梓びいきということもあるけど、そこまで悪く言うことないんじゃないの八郎。
なんてーか八郎の勝手にも見える言い分を見てるとむかむかしてきて、男ってのはどうしてこうなんだ、と思ってしまうのだ。
そんなわけで私の八犬伝においては、大輔はともかく八郎はあんまり優遇されませんのでご了承ください。
それにしても、詳細が描写されてない、行間を読者にゆだねるものだから、
私のように玉梓を善よりの悪に、多くの二次作品のように悪の親玉にすることも出来る。
馬琴さまはこの玉梓の二面性を後世の人間が活用できるように設定したのかしら、なんて思う。
義実、助けようとしたけれど八郎の反駁を受けそれを撤回。
義実はここで“言の咎”を犯すのだけど、後の安西戦の時にも犯すのはみなさまご存じの通り。
でも個人的な想いでは、八房に伏姫を嫁にやろうと言った言の咎と同じように、
玉梓を助けようとしたけど結局処刑しちゃった、この言の咎のことも気にしていてくれたらいいなあと思うんです。
意外とアッサリうん僕が間違ってたよ八郎じゃあ処刑しちゃって、みたいな感じに書かれてて余計ムカついたりもするのだが。
義実って妙なところ抜けてる感じするなあ。

そして玉梓最大の見せ場、呪いの言葉を放ちます!
八犬伝という壮大な物語を綾なす運命と因果の輪が、廻り始める瞬間です!


 殺さば殺せ。児孫まで、畜生道に導きて、
 この世からなる煩悩の、犬となさん!


むろん、「!」という記号はこの時代にはないので、わたしの脚色であります。

とにかく玉梓ひいきなんだな私ということがすごくわかる第六回でした。
玉梓への想いが迸って書いた小説「最後の希望の物語」はネタも含めたここ八犬伝ページすべての発端になってますので、
ぜひぜひご一読くだされば幸いです。伏姫編が終わったら伏姫の発端の小説も書くんだ! るんるん
いやしかし、私って本当女子ひいきだなあ。女性ボーカルばっかり聴くし、乙女ゲーで好きなキャラクターは女の子ばっかりだし。
女性作家はあんまり読まないのにね。
(最後の希望の物語(改訂版)が出来ました。ので、↑のリンクさしかえ。)
(でも最初に書いた方も好きなので、残しておきます。「最後の希望の物語」改訂前12/10/08初出)
(そして伏姫の発端の小説はこちら~
(以上2013/06/09追記)

あだしごとはさておきつ。
あと話の内容と違う突然の挿し絵!! が入ってきますがそれは次回の挿し絵だよ~という馬琴さまの注釈。
「その禍は後ついに、福の端となる」
お決まりの文句ですが、なんかある意味では、ここで玉梓救済を見ることが出来る気がする。
玉梓の呪いだって、転じて福となることがあるかもしれない。
それを福に変える、受け止めるのが、伏姫なのかも。
というか、おおむねそんな感じに書いてますね私。ああアルティメット伏姫さまよ(まどか脳)
(以上2012/11/29まで)


巻之四 第七回「景連奸計信時を売る 孝吉節義義実に辞す」○
前回の挿絵のことが冒頭から始まります。
景連が信時を裏切ったあげく信時の領地を横取りするとか。うおー、卑劣、卑劣。
「義実に意地悪したのは~、信時が勝手に言ったことであって~、ウチ全然関係ないから。
 ってか、本当は最初からイイ感じに思ってたんだよね、義実くんのコト」 ←超訳するとこんな感じ
いやお前だろ! お前だろ! 陥れようとしたのお前だろ!
「不思議に附驥(ふき)の功なりて、平館の城を獲たり」ってさらっと言う辺りがマジでムカつきボルテージMAXでございます。
う、う、ぐあー! むかつく! むかつくね! 厚顔無恥というか! 慇懃無礼というか! このことやね!
だのに義実、攻めようとしないとか……いい人なんだけど感慨を通り越して段々不安になってきたぞ。
こういうところでさえもキッチリ締めてるのに、なんであんたは玉梓を助けなかったのよと言いたくなる。

まあ憤慨はこれくらいにして。「七月の星まつる夜」つまり七夕の夜です。
「点茶の礼縡」として氏元・貞行・八郎(って私は書いてるけど本文に即するなら孝吉です)が集まってお疲れさま会みたいな。
ここで八郎突然の切腹ーーーー!! って何もここでやらなくてもーーーー!!! 阿鼻叫喚
曰くここで褒美を受けたら故主に対し不忠であるからだとか。そして畳みかけるようにここで突然の老人と子供!!
これ天羽郡関村(これ絶対関羽意識してるんじゃないかって思う)の百姓・上総の一作でござい。
一緒にいる子供が八郎の息子である、後の金碗大輔孝徳でございます。ここでは加多三。娘・濃萩の忘れ形見だから。
きっと義実はサプライズとして準備させてたんだろうなぁ~ と思うとしょぼーんとしてしまう。
義実、玉梓の時と言い八房の時と言い何かとタイミング悪いよ、八郎がタイミング悪いんかもだけど。
そしてそのタイミングの悪さは絶対大輔に引き継がれてると思うけど。ああ子供の時から悪かったのね大輔。

それはおいといて、一作おじいちゃんの語りが名文名調子なのでここは是非とも読んでほしいです。
お婆ちゃんが亡くなった時の「片腕もがれし木偶(にんぎょう)と稚児(おさなご)われ只三人、棺を守て」という描写が寂しさに秀でてる。
さて挿絵にも出てますが玉梓が怨霊ォォ((c)新八犬伝)の呪いによっての切腹とも見れます。
この時玉梓を目撃しているのは義実ただ一人。次はお前だよ、と言ってる感じにもとれて怖いですね。

しっかし八郎さ~、何て言うか潔癖ですよね。故主に対して不忠、ってのもそうだけど女に対して。
潔癖って言うかう~ん、お前人のこと言えないよねっていう感じですかね。
玉梓に図星突かれてカチンときて殺しちゃうのもそうだけど、
滝田から出奔してすぐ修行の旅に出るならまだしも関村でだらだら過ごして濃萩さんとヤることヤって子供拵えてるし。
なのに堕ろせとか言うわけでしょ。「現色情は意外の悪事、と世話にもいふはわがうへなり」とかしかめつらしく言ってるけど
ヤることヤれば子供が出来るのは当たり前でそれを悪事とか言って、濃萩と一作夫妻に全部押しつけてどっか行くのは
ムシがよすぎるんじゃないの。ほんとこういう男最悪ですよね。んっとに男は出すもの出すだけで苦労せんわな。
っと、おほほ。口が過ぎました。
八郎が世にあらまほしき忠臣でありながらも、こういう見方から彼と言うキャラクターを照らすと、
悪人とは言わなくても、私が憤慨するレベルには彼もまた厚顔無恥な感じがします。

あとは馬琴さまの小うるさい注釈。挿絵は冬の着物だけど夏だよとか。
次の回からいきなり十六年後とかになるけど大した物語がないからすっ飛ばしただけだよ、今更言うべきことでもないけど、
なんか間違いがあったらヤだしよく見てない輩のためにも書いとく。
……と超訳するとこういう感じの書きぶりなのですが、
何かこれ動画をあるシーンまですっとばしてコメントで「なぜ飛ばした」って言われるのと似てる(どんな喩えだ)
(以上 2012/12/12まで)

巻之四 第八回「行者の岩窟に翁伏姫を相す 滝田の近邨に狸雛狗を養ふ」○
前回は12月に読みましたが年が明けまして13年01月。
伏姫の小説を書く為にここから13回くらいまで精読しにゃならんけど、まずは13回まで読みます。
伏姫「巻いていきましょう、巻いて。ちゃっちゃーと」
玉梓「裏事情話すのいくない」

冒頭で八郎自害のことを玉梓に罵られたからそれを恥じたからだろうって何も知らない人は言うだろう、って書いてあるけど小谷野敦氏の名著「八犬伝綺想」ではむしろこれが理由だったとしていた。玉梓が女であったが故に死んだなら、八郎は男であるが故に自害した、とか、そんな。うろ覚えで書いてはいけない。
さて義実は五十子(万里谷入道静蓮の娘)と結婚し、伏姫が生まれます。
伏姫「いぇ~いわたし誕生~! はっぴばーすでー!」
玉梓「はいはいはいはい巻いて巻いてー」
伏姫「ぶー( ・3・)」

夏の暑い盛り、三伏の時に生まれたから伏姫、なんだけどこの「三伏」って言うのが大体何月くらいを指すのかいまいちわからん。
wikipediaによると「三伏の時期は、7月中旬から8月上旬と、ちょうど酷暑の頃」とある。更に原文には「夏の季(すえ)」ともある。これらの情報によると伏姫は8月上旬、遅くとも中旬生まれくらいということになる。そしてもしこの時代の人物にも星座占いを適用していいのならば、伏姫は獅子座にあたる。何が言いたいかと言うと拙作「プリンセスパレス」の伏姫にあたる陽姫は獅子座であり(土用生まれ)繋がりが実はあった、ということ。
そして北半球欧米圏で使われる、7月上旬から8月中旬頃までの「夏のうち最も暑い時期」「真夏」「盛夏」を表す用語のことを、英語では「ドッグ・デイズ」(dog days)と呼ぶ、のである! なぜdogと言うか。それは地球の夜空で最も明るい恒星であるシリウスが7月から8月にかけて日の出と共に現れ日の入りと共に沈むこととこの時期の暑さと関連させているからである。シリウスはおおいぬ座の一等星であり、Dog Starと呼ばれる。ちなみに拙作プリパレではゝ大法師にあたる人物を天狼、改名しシリウスと言う(天狼はシリウスの和名)
三伏に、ドッグデイズ。遠く海を隔てた国々なのに、同じ時期の暑さを表す用語にどちらも犬が隠れてる! すぎょい!
さすがにこれは馬琴さまも知らなかったと思うので後世の私が結びつけただけの「捏造隠微」であるけど、でもすごい偶然! って思いますよね。プリパレの宣伝をしたかっただけなんじゃないのかって思うけど、そこはまあ。うん。たまくしげは八犬伝サイトである前に創作小説サイトです!

はい。どうでもいいことはさておきつー。
伏姫はしかし、三歳になっても喋らないし笑わないし泣きっぱなし。医者に見せたり高名な祈祷師に祈祷してもらったりするけど全然効果がない。ところで安房には洲崎明神という神さびた社があって、ここにはかの有名な役行者が祀られているのである(どうでもいいけど役行者って八犬伝読むまでほとんどその存在を意識することがなかったから実はマイナーな神様なんじゃないかと思ってる)
そこにも代参の者が三年お参りに行ってる。だから伏姫はなんとか三年生きてるんじゃない? これ本人が直接参ったら何かいいことあるんじゃない? ない? と言う五十子の度重なるお願いに義実折れて、伏姫は多くのお付きの者と共に洲崎明神へ行くのです。
そこに現れたるはで、でたァーッ! 役行者のじっちゃんだァーッ!
「八十(やそじ)あまり」だったり「八字の霜」だったり、「八」です。そして「梓の弓」に鋭く反応してしまった私。やっぱ玉梓って梓巫女的な力もあったと思うんだよね。名詮自性の馬琴さまのことを考えても。で一緒に持ってる「鳩の杖」ってのは何か由来あるんだろうか。ポッポー

「確かに、この子には悪霊が祟りをなしておるのう。
 うむ、実にこの子にとってみれば「不幸」じゃ。じゃがの、ちぃとよう考えてみよう。
 わしが今ここで悪霊をはらってしまうのは簡単なことじゃわい。造作もないことよの。
 じゃが昔から言うじゃろう。禍福は、糾える縄の如しじゃ。
 例えば一人の子を失うとしても、後に沢山の助けを……幸福を得ることが出来ようぞ。
 そうして見るとどうじゃ、うん? 過ちや禍(わざわい)は決して禍だけ、と言うことではないわな。
 だいたい、損だとか得じゃとか、そういう風に成り立っておるもんなんじゃわ。
 全てを悲しんでもいけんし、また全てを喜んでもいかん」

以上、たまきによる超訳・役行者のおことばでした。
義実夫婦にそれ言っとけ~ はい数珠あげる~ 伏姫は仁義八行の数珠をてにいれた!
一体悪霊とは?? という周りの者の問いに全部を教えてしまえば「天機を漏すのおそれあり」らしい。
天機を漏す。コトバンクによると重大な秘密を漏えいさせるということらしい。でも伏姫屋敷さんの勘ぐり「天機を操る者」を読んでみると個人的にはあんたが天機を動かしてんじゃないですか役行者のおじーちゃん、と言いたくなる。
デウス・エクス・マキナ。あなたが神だ。

あだしごとはさておきつ。伏姫は健常者となってすくすく育ちます。可愛いよ! 頭いいよ! 完璧超人だよ!
伏姫「はぁ~~~わたしってほんっと小さい頃から最強のお姫様だったんですのね~ウフフフ(人´∀`).☆.。.:*・°」
玉梓「自分で言ってれば罪はないわなあ……」
伏姫「あらっ、あなただって自分の容姿に自信がないと、命乞いなんて出来ないじゃあーりませんかっ??」
玉梓「ぐぬぬ」

さて話は八房のことに移ります。技平さんのお宅の母犬に一匹の犬が生まれたものの、母犬は七日目に狼に食われて死んでしまいます。あわれ仔犬はこのまま衰弱死していくと思われましたが、滝田の方から鬼火か人魂かがやってきて犬小屋に光がおちると狸がパーッと走ってきて犬にお乳やってんの。
既に常識ですが鬼火は玉梓、狸は妙椿、仔犬は八房ですね。狸自身に憑くわけじゃなくてあくまでも 犬小屋の方に光が落ちる→狸やってくる→仔犬お乳飲む な流れなので妙椿も八房も玉梓の使役神って感じします。どっちも玉梓の依り代って言うか。
ところでその辺りのことを後に犬懸と呼ぶようになったのだけどそこって毛野ちゃんの領地……やっぱ意図的に玉梓寄りだよねえこれはねえ。

で、老臣ズのうちの堀内貞行が噂を聞いて犬を引き取ることに。ここで足往の甕襲という犬が狢をやっつけたら八尺瓊の勾玉が出てきたよっての話が出てきますがこれはもしや壮大な伏線だったのであろうか。甕襲の珠は勿論ご存知の通り妙椿のマジックアイテムです。犬じゃないけど獣から珠が出るってモチーフは信乃の与四郎の話にも繋がってきそうだし。
犬を育てた狸は獣偏に里だし里見家ゆかりだ、と言うわけで里見家のわんちゃんになりました。八つぶちがあるので八房と名づけられました。八房は伏姫に大変可愛がられて過ごしたとさ。伏姫が十一、二の時にやってきたみたい。十一、二と言うと数えで十か十一って頃だから、一緒にすくすく育ったんだろうなあ。可愛いなあ。私も、家に犬がやって来た頃は十二歳の頃だったので、ちょっと親近感。
原典引用すると「伏姫も又これを愛して、端近う出給ふ日は、「八房々々」と呼せ給ふに、尾を揮りつゝ走り来て、〓時(しばし)もほとりを去ざりけり」 ちょっとだけだけど、少女を慕う犬と、犬を愛する少女の描写がほのぼのしてていいなって。
伏姫「八房とは小さい頃かららぶらぶですのよ~」
八房「わふ!」
玉梓「とか言いながら八房と一緒に行くって決めた時ぼろぼろ泣いておったのはどこの誰じゃ」
伏姫「あー。ネタバレしちゃいけないんですのよ~」
八房「わうわう!」
玉梓「ええーこんな趣向のぺえじでネタバレ禁止とかー」
伏姫「ところで! 巻いていくはずが何だかやたら長くなってきてますわ!」

なのでちゃっちゃと行きます。もっとシンプルに。
季節は秋。凶作で厳しい状況の安西。なので里見にお米ちょーだい☆ と頼ろうとするのですが、
ここで、ちょぉーっと待ったー! をかけたのが。

伏姫「このコーナー始まって初のゲストです!
   お父様を勝利に導き、自らは自害し天晴れにも故主への忠義に果てた金碗八郎孝吉の遺児!
   金碗大輔孝徳こと、後の、ゝ大法師その人で~~~~す! どんどんぱふぱふー!」
大輔「姫! この時代はまだ大輔です! 大輔で通してください!」
伏姫「え~( ・3・) ゝ大法師の方が八犬伝ライクしてていいじゃないですの」
大輔「そ、そんなー」
玉梓「おおお前は、キャラデザが出来ているにも関わらずキャラページがまだ出来てない不幸極まりない我が憎き讐の息子の、……えーと」
大輔「金碗大輔です! かなまりだいすけ!(´;ω;`)」

そうです、我らが八犬伝の真の主人公、金碗大輔孝徳くん、成長後の姿がここで登場です。
しかしお父さんに似て最初からいらんこと言いです。いやね、正しいこと言ってるんだけど。安西悪いやつ、いやなやつだし。でもそうだからっていって戦起こしたりしたら民がついていかんでしょ、と義実は一喝。体面もあるしねー叱っておかんとねー。
で、その次の秋。今度は里見がひっ迫した状況である。安西、返す気ゼロ。血気盛んな大輔はお米くれろの使者として安西家の蕪戸訥平のところへへ向かいますが、軟禁めいた感じで拘束させられて。いらいら。でそーしてたら戦の準備なんかしてるわけですよこれが。しまったはめられた! 大輔らは脱出して滝田へ向かいますが訥平がおってきます。義実たちを罵りながら。
「何時も春ぞと思ひけん、汝等主従が愚かさよ」
わろたww ですよねー 「ほざきにほざく」ってのも笑えたが。これは大輔→訥平だったかな

訥平を何とかして討ちたい! と思った大輔だけどー 見えなくなっちゃったよー…… ってな感じで次回へ続く。
馬琴さまのワンポイントレッスン。「君子は陥れるんじゃなくて、欺こう!」 義実は君子であり過ぎた故に奸計邪智な安西にはめられちゃったわけだ。シカタナイヨネーってことです。疑ったら義実の負け。

玉梓「……それにしても長かったな」
大輔「えっ私の出番あれだけですか!?」


巻之五 第九回「盟誓を破て景連両城を囲む 戯言を信て八房首級を献る」○
安西に攻められ、絶体絶命的な状況の里見家 in 滝田城。
これはもう…一家自決やでぇ…… 自分は自害せむ、五十子と伏姫も一緒に死なむ…… 兵や義成は落ちのびよ……
と早くも負け戦モードの義実に義成が提案した作戦が正直ひどい

「大声で安西軍を非難したらあいつら恥入って戦う気力なくしちゃうんじゃね?」作戦
流れ:大声で景連の罪を責める→兵、慚愧の心持(´・ω・`)→僕達戦いやめます
なぜうまくいく?:人の性は善だから☆(>▽の)

玉梓「本気でヴァカか!?」ガタッ
伏姫「きゃっ! つば飛んできましたわ~も~えんがちょ~」フキフキ
稚拙って言うか人間ナメすぎだろって言うくらいのクソ作戦なので、うーん^^;って思った。
これに賛同するチーム里見も……いや、うん、義実も義成もいい子なのはわかるけど……おまいらここ戦場で、戦国時代黎明期だよ…?
当然上手くいくはずもなく。むしろこっちの士卒がダメージを負った感。

は~この窮地をなんとかせばや、と思ってる義実のところにガリガリに痩せた八房がしっぽ振って登場。
さ~て皆さんお待ちかね! 八犬伝第二の名場面ですよ~
伏姫「勿論原典なので、こういうことは起こりませんわよ♪」

安西の首を取ってくればそれはこの戦で一番の功となる。
どうだ八房。やってはみんか。魚肉を飽かず食べさせよう、職を与え領地も与えよう。
……どれもいらない?
それじゃあ、伏姫をお前の嫁にしてやろうか。
伏姫はお前の伏姫への愛と同じくらいお前を愛しておる娘。嫁に、欲しかったのじゃろう?


 ――呪い、発動!――


「……つまらぬことを」
 言うてしもうたわい。
 呟きは乾いて聞こえて軽い。重く下ろした腰をあげ、義実は肉の衰えた頬に触れた。髭も、もう何日あたっていないだろう。いっそこの髭の棘で死んでしまえれば楽なのかもしれない。やがて力無く腕を下ろす。だらり、と視線も共に落つるが、その先に見えるであろうはずの姿が、なかった。
「……八房……?」
 そこに確かにいたはずの白き巨犬は、もういない。義実が何度瞬きしても、白の色一つ見えない。
 畜生のことだ。理解していたように見えていたが、どうせ人の言葉なぞわかるはずもあるまい。抗えぬ飢えを感じてどこぞへ行ったのだ。人の死骸を食べることはないだろうが、虫でも草でも食べるだろう。主人より何より、自己の本能に忠実な生き物。それが畜生。それが犬。そう。そうだ、何を不安に思うことがある。これでは畜生よりも愚かではないか。義実は何かを祓うようにふっと笑った。生気の無い笑みであった。
 義実の悲しき罪は、思い至らなかったことだろう。
 本能に忠実であると言うことは、単純な生き物であると言うことに。
 そして、安房の逸物なる犬の八房が、人の言葉を解しないと見くびってしまったことだろう。
 人の言葉を解し、単純に物事を受け入れてしまうが故に引き起こされる悲劇を、この中年の将軍はまだ知らない。
 この時に於いてそれは彼のささやかな幸いであったと、後の世の人は嘲笑を浮かべ言うだろう。


伏姫「しまってしまいましたわーー!」
玉梓「そこは普通にしまったと言え」
伏姫「第九回予想よりも長いじゃないですかーー!! 巻きでって言ったじゃないですかーー!」
はい調子に乗りました。巻いていきます。
そういえば「只畜生にはその智恵なし」って義実言うけど、……シートン動物記を読んだあとの私としては、いやなまじ人間より賢いんじゃないんですかね……とか思う。みんなも読もうシートン動物記

もう死のう……って皆が集ってるシーンがすごい切ない。なんかじんわりきちゃう。お酒じゃなくて水を浮かべてるところかも、じわ。
って時に突然の首!!! どーやってかは知らんが、八房が首を取ってくる。おてがら。わんわんわん! これ景連の首ですよー!? 氏元びつくり
ここで義実がさっきの虚言↑を皆に語ってプレイバックするところがあるんだけど、ここには伏姫もいるってことだよね。少なくとも挿絵では同じ絵の中にいるし。てことは「自分が犬に嫁に行かされる」ということもこの時点で聞いてたってわけじゃんね。
もしかしたら、この時点から犬の嫁ぐことを考え始めていたのかも。決意が固まっていたかはともかくとして。

この勢いに乗って進軍! 進軍! 蕪戸訥平は逃げましたので白けた兵は義実に下りました。
こうして四群一国は義実のものになったよ! 治部少輔にレベルアップしたよ!
で、思い出したかのように大輔のこと。戻ってこない……行方知れず…。
「加以(これのみならず)わがこゝろに許せし事さへありけるものを」って義実言うけどこれ多分伏姫を嫁にってことなんだろうな。
伏姫「だから、わたし知らなかったですしー(・3・)」
玉梓「じゃが言われたら結婚しとったじゃろ」
伏姫「そりゃあお父様が仰ることですし従いますわよ。八房にもそうでしたし」
玉梓「ドライだの」
伏姫「そんなものでしょう?」

八房にも恩賞を与えているけど、美味しいものにも何にも見向きもしない。
彼が求めるのは伏姫ただ一人なのだから。犬養(いぬかい)達の手を逃れだだだっと伏姫のところへダッシュ!!!
ここで伏姫が枕草子の翁丸のくだりを読んでいるところがひどく示唆的である。
さっき私は「この時点から犬の嫁になることを考え始めたんじゃないか」と書いたけど、このシーンもそのことの表れのような気がするんですよね。
で、わらわは八房についていきます宣言のところ、読んでいて涙ぐんでしまうのは、書きたい、というか書く予定の小説を想ってのこと。
絶対書くぞ! でもその前に今抱えてる原稿が終わったらね。絶対と言うか、書かなきゃ終われん、八匹の犬より愛をこめて。

おのれ八房と成敗しようとする義実に待ったをかける伏姫。
功あれば賞あり、罪あれば罰あり、功があるのに賞もなし、罪もないのに罰があればそれは道理が悖るというもの、
国は滅びてしまう。八房に真の賞を与えなくてはいけません。
お父様、私を八房に嫁にやると、そう仰ったんでしょう?
ところでここで初めて綸言汗の如しの意味を知る、というかわかったというか。汗をかいてしまえば体に戻ることはないように、一度出した言葉をひっこめることは出来ないってことね。覆水盆に返らずか。

「伏姫……」
「いいんです。いいの、お父様。これも皆、前の世の悪業の報い。
 ……そう、諦めているから。
 ……だから……」
「違う、断じて、そんなはずが!」
「――やらないと言うの、お父様ッ!」
「――ッ!?」
「子供だから? 自分の子だから道理を曲げると言うの? それでは政道を曲げるようなものだわ!」
「ふ、せ」
「たとえ自分の子であろうと、一度言ったことを反故にせず、正しく履行する、畜生に従わせ畜生道へ入らせる。
 それでこそ民はお父様のまつりごとの正しさを理解すると言うものです!
 もし……そうしないと、言うのなら――
 お父様は同盟を、約束を破った安西と、同じじゃないですか!」
「……ふせ、ひ、め……」
「お願い。わかってください。
 ……私を棄てて」
「ひめぇっ……!」
「……ふふ。
 親に直接、棄てろ、なんて。
 ……そんなこと言う娘は、この世に、この三千世界に、わたししかおりますまい。
 ……馬鹿な女。
 ほんとう、大馬鹿、ね……」


玉梓「おいおいおいおい巻いていくんじゃなかったかえ後一回あるぞ」
伏姫「あーっせっかくお涙頂戴のシーンでしたのに~!」

ここで義実は迂闊に姫をやると言ってしまったことや第六回の玉梓さばきのことを語り、後悔するのである。あとたまつら≒たまつさ とか。あと伏姫の伏=人にして犬に従うとか。
そう。そうです。「伏姫がいる目の前(多分)で玉梓のことを話す」のです。
そうですね。私「最後の希望の物語」(改訂前)を書いた時って早く玉梓のこと書きたくて気が逸ってたから、ろくに原典参照せずに書い たのですよね。だから「玉梓――と、姫が決して知り得ないはずの、かつて安房を滅ぼしかけた傾国の名を最後に付け加えて」とか書いちゃったのよね……!! ばか……!! まじで……!
伏姫「え~~でも~~あまりにさらっと言われちゃってたので忘れてましたわ(・ω<) テヘペロォ☆」
玉梓「まァそんな扱いだわな……期待なんぞしとらんわ」
まあその内訂正入れます 小説ページ新しくする時にいっそ全部書き直してしまおうか。あれを書いた時は連作になんかするつもりなかったし…(で、書きなおしたのがこちら
ほんでもまあこの時点で「そーかそーなんやーわたしの身には悪霊の祟りが……マジへこむし……」って感じでバッドエナジー(c)スマイルプリキュア!が放出されてたんじゃなかろうか。「いーやー死ににいくようなもんと思って諦めよ……」と言う思いに拍車がかかった感じがする。諦めたらこの呪いもどーにかなるじゃろみたいな感じで。
「一旦鬼畜に伴れ、御諚に偽りなきよしを、竟に果たさば玉刻る、命はかねてなきもの、と思ひ決て侍るなる」ともあるしね。あ、そうそう、ここだここだ。ブログ名にもなってる枕詞の「たまきはる」(玉刻る)が出てきて嬉しくなって。ブログにも書いたような気がします。ブログ名は枕詞と建春中納言日記と自分の名前からなんで八犬伝は関係ないんですけどね。

ここで義実、捜神記と槃瓠説話のことに言及。馬女房、蚕の起源でもあったの。何か関連性はあるんか。でここで八房を殺しちゃったらそれは昔の人と同じじゃわい。「人にして、こゝろ獣に劣れるものなり」ともある。
八房、お前に伏姫をやろう――ってとこで次回! 八房はわかればいーんだよって感じでしずしず出ていったよ。

巻之五 第十回「禁を犯して孝徳一婦人を失ふ 腹を裂て八犬子を走らす」○
伏姫「ちょぉっとぉおおおお!!! タイトルで盛大にネタバレしちゃってくれやがってございますですわよ!?!」
玉梓「お前の言葉づかいの方が問題じゃ落ち着け!」
伏姫「死なないで! って言ってるのに○○死す、みたいなタイトル告げる次回予告みたいですわ」シオシオ
玉梓「うーむ馬琴翁も思った以上に長くなってしまったためにこのタイトルを次輯予告にしたようじゃの……」


ここでもなるべく巻いていきます。
伏姫ママ五十子と伏姫の会話が泣けます。でもね、もう伏姫は諦めちゃってるから、何を言っても無駄なのである。それに数珠に浮かんでいた仁義八行も見えなくなっていることをここで初めて打ち明ける。この字が消えた頃から八房は私に懸想し始めてたんじゃないかしら、と。ちなみに消えたのは時系列的で言うと景連が滅びた時らしい。
私が行/逝くことで悪業が消滅すれば安心です……とか言うけど伏姫、涙をぼろぼろ零してそれを語ってるのだな。そしてその涙は「玉なす涙」なんだよなあ。玉なす玉梓、を思い出す。
そして浮かんでいる文字はみなさんご存知「如是畜生発菩提心」です。義実の解釈によると「畜生に導かれて菩提心を発する」ってことらしい。(「姫が業因も今畜生に導かれて菩提の道に入らば後の世こそやすからめ」)うん、「発菩提心」は何となくわかるけど問題は「如是畜生」の方で、これがいまいちわからん。
如は如し、是はこれ、畜生はそのまま畜生……是れ畜生の如く菩提心を発す ってことなんかなあ。
そしてここで初めて大輔に嫁にやろうと思ってたことを話す。大輔ってどうなん? 城で暮らしてたならもしかして伏姫とは幼馴染だったんかな。よく二次作品とかではそんな風に描かれるけど。乙女ゲーではある程度需要のある攻略キャラ属性ですわね。

さて伏姫はきらびやかなお姫様衣装を脱いで料紙・法華経(とあと筆記用具。硯とか)だけ持って八房の元へ。変なことしたり手ぇ出したら死ぬからなゴルァ宣言は女召使達は聞いてたのかな。又聞きで五十子や義実は聞いたかもしんない。蒼天に向かってわおーんと吠える八房。どことなく、結婚式(えっ


伏姫の後を追っかけてった蜑崎さんのお父さん十郎。だけど、水練が巧みであったにも関わらず、仙界と現界を遮る川に流されて死亡 というか流されて頭を強打して死亡みたいな。どっちでしょうね。脳出血で倒れて死んだのか倒れて脳出血で死んだのかみたいだよね。
これに恐れをなしてみんな引き下がる。そうして富山入っちゃダメ! 禁止令が出されるのである。でも五十子の愛が泣けるわな、洲崎の行者の岩室に行くって言っておいてその実富山に参詣させてたなんてさ。ウッ。しくしく。

で、禁止令は見られたら恥ずかしいだろう……ってことも含めてだけどこの伏姫と八房の婚姻は民達の知るところじゃなかったってことなのかしらね。でも大輔は噂を聞いたみたいだしなあ。どっかから漏れたのかなあ。
ていうか、大輔もたいっがいモラトリアム男過ぎ。一年て…一年てあんた……義実めっちゃ心配しとったし探しとったんに……まあこの間父の八郎みたいに他の女孕ませてないだけよしとするけどおま……八房に比べてこのザマ……どこのニート……もホントダメ男… マダオ…
で、お姫様奪還の為に富山へ! 第二輯へ続く! ってとこでおわり~ 予告編みたいな感じで挿絵ついてますねスナイパー大輔ェ
綺想で、お姫様(というか女)を救うのは大輔と親兵衛だけって書いてあってうわー確かにそうだわーって目から鱗だったなあそういえば。
そんなことを思い出して、この辺でシメですん。
馬琴さまのお言葉。長くなりすぎちゃった☆ ゴメンネ! まだまだ物語の発端だからね~~! フレンドリーに解するとこうなる。

というわけで肇輯でした♪ 回を増すごとにめもどころか精読になってすいません。この辺りは八犬伝の肝でもあるし、伏姫の話書きたいのもあるしで、どうしてもぐりぐり読んじゃうのですわ…
ちなみに本当はもう12回までさらっと読んじゃったのですが、また読みます。読んでは戻り読んでは戻りが八犬伝。
この肇輯だけで本の半分くらいなんですね。そんなに読んでないと思ってたら。
第二輯も楽しみです。
(以上2013/01/30まで)

肇輯 第二輯 第三輯

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