2013.06.29

「彼女のはじまりの物語」後編を掲載しました。

前編は伏姫が主人公なんですけど後編は思い切り玉梓主役。
この後編だけ読んだらタイトルの「彼女」は玉梓のことだと思われそうだなあ…なんて。
伏姫と玉梓、どっちの「彼女」でもあるのですが。
書くのがすごく楽しかったところは、オリジナルの、定包による玉梓暴行シーンなんですが、
その辺りのプロットを作ってた時に浮かんだねた。
ほとんど文字ねたです。


「さて、お前に一つ問題を出そう」
 まるで場違いな明るい声だった。笑みは解かれず、果てしなく彼女を愚弄している。
「そんなお前が光弘様と言う後ろ盾をなくした今、どう生きていけるのだろうな? あるいはどう言った道を選べばいいと思う?」
 自分のことだからよくわかるだろう? とばかりに、遙か高みから彼は問う。
 それは、と言ったきり玉梓は答えない。ただわたしには揺れる胸の鼓動が聞こえる。一つの問い。
 光弘の生前でも、確かな答えは出ていなかった。今もまだ、選び兼ねている。
「主は既に死んでいる。死んでしまったのだ。あるか無きかのくだらない情など、捨てるのに躊躇などあるまい」
 そんなものに何の意味もない。決めつけて、嗤う。
「故郷へ戻ったところで、この世の中、女独りで何が出来よう? 野垂れ死ぬだけだろう。さながら捨てられた犬のように」
 玉梓は、何も答えない。それに聊か苛立ちを感じたのか、彼は玉梓の頬を蹴り飛ばす。
 弾き飛ばされ、咳き込んだ後ぐったり倒れる彼女を見、ふん、と満足げな息をついた。
「お前のような女が亡き主を想う貞女を気取るのか? 誰にでも足を広げ誰にでも艶然と笑い誰にでも媚びを売る小汚き雌犬が」
 力を失い抵抗出来ない彼女を起こし、彼は乱暴に衣服を剥ぎ取っていく。
 首筋を、舌と言う蛇が這う。
「あの煩わしい金碗が戻ってきてみろ。追放など生ぬるい。打ち首になるより無いだろうな」
 唇に口づける代わりに、彼はそんなことを言った。そして首に斬り込みでも入れるように喉を舐める。
 そうだ。玉梓もわかっていた。自分の辿り着く終わりはたった一つ、死しかないことを。
『死ぬ?』
 光を失いかけていた虚ろな目が途端に、はっと覚醒する。彼女の声も、随分久しぶりに聞こえた。
「どうだ玉梓」
 ただ聞き流そうとしていたかもしれない定包の声を、だからこそ玉梓ははっきりと聞いてしまった。
「私の妻になれ」
 確固たる何かを掴んだ、勝利の笑みが彼に浮かんだ。それを近過ぎる距離で、彼女は見てしまう。
 確かなもの。安心出来るもの。
 それは自分を生かしてくれるもの。
「正室だ。側室よりも遥かに身分の高い、安全な立場だ」
 艶然と微笑んむ定包。目前にある、目を丸くしている彼女の唇を、彼はじっくりと時間をかけて奪った。
「お前にはもう拠り処など、私以外に残されてはいないのだよ」

(彼女のはじまりの物語・後編より抜粋)





【伏姫】でも正室=正社員 側室=契約社員 or 派遣 or バイトっていう認識はだいたいあってると思うんですの。
【玉梓】お前は姫っていう身分だからそう暢気に言っとられるんじゃい。
【伏姫】山下家に正社員兼社長夫人として改めて入社した玉梓は、
【玉梓】しれっと続けんなし??
【伏姫】しばらくの間、高月給高待遇にこの世の栄光を極めたかと思いきや、
【玉梓】……。


 上の社員ばかりが優遇されるブラック企業であった山下家。
 さてここに登場するのが、結城から安房に本社を構えることになった里見家である。
 かつて神余家に勤めていた優秀な家臣・金碗八郎孝吉をヘッドハンティングしており、
 ていうかむしろあっちから面接を受けに来た、この里見家、
 福利厚生は勿論仕事のやりがい上司の質の良さ、社員達の仲の良さ等
 全てにおいて超絶健全なホワイト企業であったのです! 源氏の旗の色は白ですからね。

 「山下家に勤めてるんだが俺はもう限界かもしれない」という社員達は
 社内に密かにばらまかれた里見家の会社説明会のビラを見て
 みな里見家に転職することを願い出た!
 これを見た山下家の重役・岩熊と社長秘書・妻立はなんと社長を暗殺! 社内クーデター勃発!
 この二人は里見家で重要なポストにつこう、
 あわよくば玉梓を自分の夫人にしようと考えているブラックな人物だった!
 うーん、ブラックにはブラック!


【玉梓】……(-_-;)


 しかーし! 超ホワイト企業な里見家に二人のブラックさは
 いとも簡単に暴かれてしまったーっ! リストラだーっ!
 残るは社長夫人玉梓! 己の美しさを武器に
 「OLどまりでいいから!」「お茶くみでいいから!」
 と涙ながらに訴えて一度はその職が与えられるか――!?
 と思いきや、山下家がブラックになった理由はこいつにある! として無惨にもリストラ!
 しかも派遣会社どころかアルバイトすら門前払いという仕打ちーー!!

 路頭に迷った彼女。ホワイト里見家が治める地では娼館や風俗といった水商売の店すらなく、
 女の弱い足では国越えも出来ない……。
 ワープアもいない安房の国では、そう言った社会的弱者を救う為のセーフティネットがなかったのです……。

 衣食住の全てがなく、飢餓に苦しむ玉梓。
 野良犬達とその日の食糧を奪いあう毎日……。
 やがて倒れる彼女……。
 彼女は最期にこう言った……!

「おのれ……憎い、憎い! 里見と金碗よ!!」
「呪ってやる……呪ってやる!!」
「お前らなど、子々孫々に至るまで……!」



「就職難にあえぐ、煩悩の、犬となさん!!」





 ……そしてその呪いの予言通り、現在の就職氷河期がやってきたのです!
 学ぶ場所であるはずの大学のアイデンティティの崩壊、
 年々早まる就活開始期、それを制御し、カバーし切れないダメ政府、迷走する大学、そして学生達。
 信頼し合っていたはずの仲間達が、まるで裏切りでもするように次々と内定を獲得していく…!
 生まれる疑心暗鬼、起こる裏切り、止まらない出費、止められた学業、
 埋まらない履歴書にエントリーシート、グループディスカッション、筆記テスト、SPI、
 面接に次ぐ面接、明らかに自分より優れている学生のアピール、底意の見えない人事担当……!

 現代の八犬士達もまた、そんな泥沼の就活危機に陥っていた!
 はたして彼らの絆は、玉梓の呪いが齎したこの就職難にどう立ち向かうのか!


 新番組「就活仕事ハッケン伝」


 ――きみは、天職に出逢えるか。






【伏姫】こう! ご期待!
【玉梓】って途中からネタタイトルと大きく逸れとるやないかいッ!!!(スパコーン!) (スリッパで叩くSE)
【伏姫】あら。てへごめんなさ〜い、なんか調子がよくなってきてつい〜☆
【伏姫】でもよくないです?? 永田町八犬伝、バブル八犬士に続く二次作品はこれですわ!
【玉梓】やめてやめて他人事じゃないから笑えないし。しかもタイトルはNHKの番組からのパクリじゃろう。


【伏姫】でも考えて見れば八犬伝って犬士達の壮大な就活物語ですわよね。
【玉梓】内々定もらってから内定もらうまでが長いがな。(内々定は行徳で蜑崎さん・ゝ大様と出会うあたりを想定)
【伏姫】この根本にあるのがやっぱりアナタ! 非正規雇用から正規雇用になってからの死!
【玉梓】無理やり繋げたな(- -;)

【伏姫】でも……やっぱり正社員の方が安泰ですわよねー。側室みたいな身分なんていつでも切られちゃうでしょうし。
【玉梓】やめろ言うな全国の女性非正規雇用労働者の苦しみや辛さや嘆きが私には聞こえる………orz


ブワアアア! 書いてる私がつらいからこのネタやめる!!
お嫁さんになると言う永久就職法を封じたのは男女雇用機会均等法だろうか…それとも男女共同参画社会ってあれか、などと思う私だった。
タイトルの元ネタは91年の映画「就職戦線異状なし」より。未見で申し訳ない。
槇原さんの「どんなときも。」が主題歌で大ヒットしたあれ。ってまたバブル時代かよ、と思ったけど偶然だわ多分。
これもやっぱりネタ書くにあたってwikipediaを調べたけど、

 『空前の売り手市場』と言われた時期の新卒大学生を描いているが、本作の公開時点では既にバブル景気は崩壊していた。
 現実の世界においては前年比で求人数が大幅に下落しており、同年(1991年度)の新卒の就職戦線は、
 この映画の中のような状況とは大幅に掛け離れたものであった(「就職戦線異状なし」wikipediaより)

なんですってー。時機逃した感じがあちゃーである。
今の複雑怪奇を極める就活模様もこういう映画作られたりするんカナー はあやだやだ。

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