※シャーペンイラストと文字のミックスネタです


先日行った落語会で「桃太郎」が高座にかけられました。
こんな感じで脳内変換されましたのでお楽しみください。
(参考底本『桂米朝上方落語大全集36』)



【小文吾】
むかしむかしあるところに、おじいさんとおばあさんが住んでおったのじゃ。
ある日のこと、おじいさんは山へ芝刈りに、おばあさんは川へ洗濯に行ったんじゃ。
おばあさんが洗濯していると、川をどんぶらこっこどんぶらこっこと大きな桃が流れてきたのじゃ。
その桃を持って帰って割ってみると中から出てきたのは元気な男の子。
おじいさんとおばあさんはこの子を桃太郎と名付け、大切に育てたのじゃな。
桃太郎はすくすく育ってな、おばあさんの拵えてくれたきび団子を持って、
ひとつくださいと言った犬、猿、雉をお供に連れて鬼が島へ鬼退治。
桃太郎さんは強いんじゃぞー。見事、鬼を成敗して、沢山の宝物を持って帰ってきて、
おじいさんおばあさんに孝行した……というお話じゃね。めでたしめでたしじゃ^^

親兵衛でもこんな可愛い時代がありました。


(※1)

【道節】ったく! えーと、おじいさんとおばあさんがだなぁ!
【親兵衛】名前は? 妙真おばあちゃんや文吾兵衛おじいちゃんみたいな名前は?
【道節】……どうでもいいだろ!
【親兵衛】よくないよー。八犬伝はどんな瑣末なキャラでも名前ついてんだからね、それがどんなにやっつけ仕事でも(※2)
【道節】こんガキ……名前もねえほどの昔!
【親兵衛】えええ〜〜!? それほんと相当昔だよ〜〜?? 人間に名前のない昔なんて、ありえなーい! ぷぷぷ! 節にい知ってる? 名前こそがその人を定義する誰にも奪うことの出来ない唯一のものなんだよ〜? つまり世界! 谷山浩子も歌ってるよ、「世界よ 私の名前はあなたと同じ」って(※3)
【道節】知るか! いいから進めっぞ!! 「ふ〜〜ん」とか言って聞き流せばいいんじゃ!
【親兵衛】ぶー。
【道節】おじいさんは山へ芝刈りに、おばあさんは川へ洗濯へ、
【親兵衛】ふ〜〜〜ん。
【道節】えーすると川上から大きな桃がどんぶらこっこどんぶらこっこと流れてきてだな
【親兵衛】ふ〜〜〜ん。
【道節】その桃から生まれたのが桃太郎。桃太郎は大きくなって鬼が島へ鬼退治に行くわけだ。
【親兵衛】ふ〜〜〜ん。
【道節】おばあさんが持たせてくれた美味しいきび団子をお腰につけてな、
【親兵衛】ふ〜〜〜ん。
【道節】……チッ。ムカつくなその相槌。……まぁいい。
【道節】すると桃太郎さんひとつ下さいと犬・猿・雉の三匹がお伴につく。鬼が島で一人と三匹攻め込んで大討ち回り!
【道節】ワー強いッ! 桃太郎さん勘弁してと鬼が降参するんだな、んで沢山の宝物を持っておじいさんとおばあさんの所へ帰る。
【道節】どうだ、いい話だろ。さ、寝ろ。……寝ろ! ……ニヤニヤ笑ってるんじゃねえ!!!
【親兵衛】節にい〜〜〜ぷぷぷぷ!
【道節】何故に笑う!!
【親兵衛】はぁあんまりひどくて目がさえちゃったよ♪ 大体寝物語に桃太郎って、ねえ? いまどきラブシーン一つもない話なんて!
【道節】おんめェー静峯姫に潔癖気取っといて何じゃその言い草はァーッ!!
【親兵衛】え〜〜静峯ちゃんとは〜、見えてないとこでラブラブだもん♪♪ 昔から言うでしょ、秘すれば花なり!
【親兵衛】まあ静峯ちゃんとの話はおいといてー♪
【親兵衛】あんね節にい、桃太郎ってね、日本の昔話の中でかなり完成度の高い話なんだよ。
【道節】そ、そうなの?
【親兵衛】世界的な名作だよ。海外の他の民話や昔話、何だったら神話とも十分タメ張れるんじゃないかな。
【親兵衛】それをあんな風にぞんざいに語っちゃうんだから。あれじゃ作者も泣くよ〜〜
【道節】作者も泣くて…!

【親兵衛】
それからおじいさんとおばあさんだけど、これ本当はお父さんとお母さんなの。ボクで言うと房八父上と沼藺母上ね。
でもね、子供にはおじいちゃんとおばあちゃんの方が馴染みが深いってことでわざと変えてるんだ。
ボクもおばあちゃんっ子だったしわかるよ。節にいだって音音に可愛がられてたでしょ?

【道節】お、おう… なるほどな……。

【親兵衛】
山へ芝刈りに、川へ洗濯へ、って言うけど、これ本当は川じゃなくて“海”なんだ。
父母の恩は山よりも高く海よりも深く、ってこと。勿論ボクも、父上と母上には海よりも深く山よりも高く、感謝してるよ!

【道節】そうか……それから? それから?

【親兵衛】
桃から子供が生まれるわけないでしょ? これ、異常誕生譚ってやつ。要は神様の子供だってこと。毛野にいなんかはこれに近いよね。
普通の子供が鬼退治、なーんて出来るわけないから、あえて桃から生まれた特別な子供、神童ってことにしちゃうの。

【道節】さすがリアル神童なだけあって言うことに説得力があるな……。

【親兵衛】
そんで鬼が島なんてとこはこの世にはないの。ボクらが生きるこの「世間」のことを鬼が島ってことにしてるの。
今でこそ大戦も終わって平和に暮らしてるけど、考えてみればボクらなんていっぺん死んじゃってる身の上だったりもするじゃんか。
ボクら犬士、みーんなどっかしら苦労してるよ? 荘にいは下人生活だったし八にいは牢屋に入れられてて、
角にいはずっとお父さんに苛められてた挙句奥さんだって亡くしちゃうし、信乃にいだってボクに負い目感じてるし、
伯父上だってボクの父上と母上亡くしたことはすんごい辛かったし、毛野にいはずっと独りで戦ってきたんだし。
ほんと、怨霊の呪いのあるなしに関わらず、渡る世間は鬼ばーっかり。辛いことのない人生なんてどこにもないよ。
ボクもこう見えてけっこー京師ではストレスたまってたしね。
この世に生まれたら必ず苦労しなくちゃいけない。怨憎会苦って教えもあるよね。これが“鬼が島”の意味するところなんだよ。

【道節】ほお……。

【親兵衛】
世の荒波に揉まれながら必死に生きること、それが“鬼が島の鬼退治”って感じかな。

【親兵衛】
犬は三日飼われたら恩を忘れないって言うくらい仁義に厚い動物なの。ボクらは犬士だからね、仁義に厚いんだよ、えへん。
それから猿。猿智恵、なーんてバカにされるけど、人間以外だったら一番頭の良い動物だよ。
雉はたとえその身を蛇に巻きつかれようともじっと耐えて大切な卵を守るの。そんで最後には十分に体に巻き付いた蛇をばぁん! って切れ切れにしちゃうんだよ、それくらい落ち着いて勇気のある動物なの。
この三匹で「智」「仁」「勇」って言う三つの徳が表されてるわけなんだー。「勇」はボクらの珠にはないけどねっ

んでね? さっききび団子が「美味しい」とか言ってたけど、実際はしょぼしょぼしててあんまし美味しくないの。
じゃあ何できび団子なのかって言うとね、お米や麦に比べてキビってのはお粗末なものなの。
これはつまり「贅沢をしちゃいけない」っていう教えを表してるんだよ〜。

まとめると、「桃太郎」ってお話はね、
人間と生まれた以上、厳しくて辛い、鬼のような世の中をそれでも前向きに生きなくちゃいけない。
その過酷な生活の中で贅沢をせず、智・仁・勇の三つの徳を身につけて、
一生懸命働いていろんな目に遭っていろんな苦労をして生きていく。
そうして生きていく中で得られるものが正真正銘、本当の“宝物”なの。
それは例えば信用とか、名誉とか地位、友達や仲間、恋人に家族のことを意味してるの。
えへっ、ボクはまだ子供だから家族は作れないけど、いろんな人からの信用もあるし名誉も地位もある。
孝嗣君っていう友達もいるし、仲間は兄さま達に伯父上、それに恋人は静峯ちゃん! みーんないるよ!
それと、これからは妙真おばあちゃんや代四郎や音音、曳手と単節達にい〜っぱい孝行するの。
依介達にもお金とかいろいろ送ったりして、ボクんちでもある犬江家を立派にしていこうって思ってるんだ♪
そしたら。そしたら、さ。
天国にいる父上や母上も、きっと喜んでくれる、って。
うん、ボク、信じてる!

何てね……えへへ。
こほん。
んまあ、そうやって得た宝物で一人前の人間になって、父母に孝行して家の名前をあげていくの。
これが人間、男子としての一番大事な道なんだよ!



……ってことを、昔の人が巧みにお話の中に仕込んでおいてるのに、
あ〜〜んな杜撰な語り方で語られたら値打も何にも無くなっちゃうわけ。
も〜、ボクの前だからいいけど、力二と尺八にあんな風に話したら承知しないんだからね。
節にい? 聞いてる?





○親兵衛と道節で落語「桃太郎」おしまい♪○

ページ編集し始めてから地の文を書き始めたのですが、
思ってた以上にすごく親兵衛にぴったりな噺だなぁ…と思いました。
だいたい落語の子供ってのは「初天神」にしろ「真田小僧」にしろ「佐々木裁き」にしろ「雛鍔」にしろ、
大体はこまっしゃくれた子供で、大人をおちょくるのに長けております。
子供が好きなのもありますが落語に於いてなお際立つその生意気さが好き。
特に「佐々木裁き」がお気に入りでマイベスト十席に入ってます。これの白吉は犬士で言うと親兵衛よりは毛野っぽいかな。
また落語ネタで何かやりたいナー。犬士達はそれぞれ落語のキャラクターに置き換えるのも容易でもあるので。

原典の落語「桃太郎」の音源も聴いてみてくれたら嬉しいです♪

■注釈■
※1 寝まっし:金沢弁で「寝ましょう」「寝なさい」「寝たらどう?」の意。
「〜まっし」は「〜しなさい」の意。よく観光台詞で聞く「おいでまっし」は「いらっしゃい」の意。

※2 原典読んでる方なら例示する必要もないのでしない(と書いているがぶっちゃけると良い例がいまいち浮かばない為)
馬琴さまそのネーミングセンスください。

※3 谷山浩子『誕生』の一節。アルバム「そっくりハウス」収録。

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