もじろぐ3 −玉梓の例題−

今回はがっつりシリアスです。

先日読了した、スチームパンクシリーズ最新作、ライアーソフト/桜井光・著「黄雷のガクトゥーン」(R18)
各章にたびたび登場し、読者に人物の行動を選択させる“例題”のパロディです。
(ここに掲載されている連作「八匹の犬より愛をこめて」は、スチームパンクシリーズと桜井光先生の作品に大きく影響されてます)




例題です。

ここに、一人の女がいました。
美しい女です。全てを虜にする女です。
その美しさで、一国のあるじのものになりました。

女は自分が弱い生き物とわかっていたのです。
だから権力者のものになりました。その権力をほしいままにして暮らしました。
そのために、国は疲弊してしまいました。


そこに救世主がやってきて、国のあるじが変わりました。
女は捕らえられてしまいます。

女は責められます。
あるじよりも悪いのはお前だと弾劾されます。

女は、どうしましたか?

その通りだと首を差し出しましたか?
全てを諦めて首を落としましたか?
生きたいと、命乞いをしましたか?


【首を差し出す】
【諦める】
【命乞いをする】





女は、命乞いをしました。
女が生きるためには仕方なかったのだと、泣いて救世主に助けを求めました。

女は、どうなりましたか?
助かりましたか? その通りだと、思われましたか?



例題です。
一人の女がいました。
処刑に際し、泣いて命乞いをした哀れな女です。
女の弱さを滔々と語り、死にたくないと叫んだ、美しい女です。

救世主も彼女の様子に心を動かされました。
女だからと、彼女を助けると口にしました。

ところが、救世主のしもべは言いました。
ここで女を逃がしては、更なる悪を呼ぶと。
それどころか、悪女の泣き落としに情けをかけたと、救世主を笑う者も出てくるだろうと。

救世主は言いました。
私が間違っていた。助けるのは止めようと。

女は、やはり泣きました。
約束を破られたことに泣きました。

女は、どうしましたか?
涙に暮れて、その首を落としましたか?
泣くのさえも、諦めましたか?
それでも生きたいと、叫びましたか?


【首を落とす】
【諦める】
【叫ぶ】





女は――
女は、叫びました。叫びに叫びました。
その叫びはやがて怒りの色を帯び、罵声に変わっていきます。

彼女はその美しい顔を、まるで修羅や般若の如く変えてなおも叫び続けます。
その声が、怨霊の呻きに変わっていくことも知らないで。

叫びに叫び続けて――

彼女は、どうなったでしょう? 救世主とそのしもべに、何を齎したでしょう?


彼女は、何になってしまったのでしょう?

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