金色に千切れる雲は
あなたの吐き出す怒りの色
はるかな山かげうずくまる
闇はわたしの心のすみか
世界で一番遠い人
一番最後に愛しあう人
見えない鎖つないだまま
長い長い距離を遠ざかる人
○
愛した故郷が、城が遠ざかっていく。
実際はそう遠くない距離。それなのに、いくつもの山や川に隔てられている程遙か向こうに見える。
時間さえ違うかもしれない。時間の流れないところに、私は旅立っているのかもしれない。
死んでいくのと何が違うのだろう。
犬に嫁すならば、私もまた犬だ。
犬ならば、そう、捨てられる。
無駄に子を成し、食物を奪い、田畑を荒らし、徒に噛みつき、犬同士争い合い、
それなのに、泣き叫ぶように月影の下に、悲しく吠える。愛してくれと、尻尾を振る。
そんな、忌み嫌われる畜生だもの。
私は捨てられたようなもの。
冗談混じりに嫁にやると、言われたが最後だ。
追いつめられた状況でもあったのだ。
捨てたのだ。私を。
捨てられたのだ。私は。
私達は二人、いいえ、一人と一匹。
いいえ。
二匹。
あの仁君たる我が父君の理想郷から、捨てられた犬、二匹。
女はいつでも、捨てられる。
男の社会の理から、仏の教えから、儒教の護りから、みんな、みんな、捨てられる。
この世全ての悪と憎しみと悲しみを一身に背負わされて、捨てられていくのね。
美しい世界には。
汚れた畜生など、いらないのだから。
それがさだめ。
それが運命。
ああ。
私は。
私は。
もう。
生きることを。
諦めてしまおうか。
そうやって。
全てを諦めそうになった時。
――悲しく笑う誰かの、涙の落ちる音を聞いた。
引用
「犬を捨てに行く」 谷山浩子『心のすみか』収録
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