世界中の恋人達
そのすべての時間よりも
幸せだった 輝いていた
愛していた 命まで

きみはぼくのドア 真実のドア
ただひとつの世界への


きみの夢を見てた 短い明け方
きみの胸のドアが 静かに開いて
光が体を満たしていく 泣きだしたいくらいに
ぼくは一つの言葉だけを 胸に抱きしめてた
世界中の恋人達 その全ての時間よりも
幸せだった 輝いていた
愛していた 命まで

ささやかな出来事 続く毎日が
人並みに過ぎ去り ぼくを老いさせる
たとえば生きていくことの意味や 本当の人生が
君との日々の中にある ぼくは君を生きる
祈ることが 全てだった
他に何が出来るだろう
きみと言う深く大きな海の前で ぼくは立ち尽くす
きみはぼくのドア 真実のドア
今もぼくの中にいる

世界中の恋人達 その全ての時間よりも
幸せだった 輝いていた
愛していた 命まで

きみはぼくのドア 真実のドア
ただ一つの世界への


今、私の周りには、大切な仲間達がいる。
今、私の隣には、愛する人がいる。
悲哀と煩悶、戦いと苦悩の日々は去り、橙色に輝き生を謳歌する幸福の毎日が続いていく。


でも、けれども。
あなたがいない。
あなただけがいない。


私が殺してしまった。私が見殺しにしてしまった。
新しい愛に許しを得ても、安らぎを得ていても、あなたがその胸を突いた日が近づけば、想わずにいられない。
いいえ、きっと。
今でも想い続ける。ずっとずっと想い続けている。
誰よりも近しかったあなたを。
二人で一つのようだった私達を。
きっと世界中のどんな恋人達よりも、輝いていた私達を。


それなのに。


私が、壊した。
壊してしまった。


だからあなたも。
あなたも、恨めばいい。
私を呪えばいい。怯えるだけであなたを助けることもせず、突き放した情の無い私を。
弱い私を。
最後には私を殺してしまえばいい。
あなたになら、この命を差し出しても構わない。
そうする権利が、あなたにはあるのだから。
今、私の周りの大切な人々も、きっとわかってくれるから。


それなのに。
ああ、それなのに。


幻視するあなたは、夢の道にいるあなたは、深く悲しんだように眉を顰めてから、そして慈悲深く微笑する。
そんなこと言わないでと、泣きそうな顔で、やはり微笑する。
一つ、私の額に口づけを落として、そして光となって消えてしまう。
私の中へ、溶けるように。


あなたが胎内に宿していた珠を通して、聞こえてくるような気がした。伝わるような気がした。
私の中のあなたの声が。
私の中のあなたの鼓動が。

そうだ。
私はあなたに生かされた。
あなたが命をかけて、臆病な私の為に、新しい世界への扉を開いてくれた。
あなたそのものが扉となり、閉ざされた闇の世界に光を満たしてくれた。


あなたが私の、光であったから。


だから、今私は、あなたを生きているのでしょう。
私の中に、あなたがいるのでしょう。
この世界の全てに、あなたがいるのでしょう。

目前に現れるあなたは、少女のように微笑んで、けれどもまるで母のように私を抱きしめる。
私も、抱きしめ返す。
私の中にある、確かに続く愛を伝える為に。
ありがとうと、全身で伝えたいが為に。


ありがとう。私を今も愛してくれて。
ありがとう。私に大切なものを与えてくれて。


終わりの時が来て、全てが幻と消えようとも。たとえ輪廻が果てようとも、全てが忘れ去られようとも。
私はあなたと、あなたがくれたこの世界の大切なもの全てを愛し続けます。


この身に灯る、とこしえの愛の如く。


引用
谷山浩子「Door」 『僕は鳥じゃない』収録

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